【OISTレポート】自然界で最も複雑な寄生動物!?ニハイチュウ

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寄生虫または寄生動物とは、他の生物に寄生して、その生物から栄養などを奪うことで生きている生物のことを言います。

タコに寄生している「ニハイチュウ」は、タコの腎嚢に寄生して、タコの尿から栄養を摂取して生きています。体の細胞はわずか30個ほどしかなく、体も3つの部位のみできている単純な構造ですが、驚くほど複雑な生活様式をしていることがわかっています。その生態を一部紹介しましょう。

単純な寄生動物「ニハイチュウ」の複雑な生活

まずニハイチュウは、有性生殖も無性生殖もできます。無性生殖とは、1つの個体のみで新しい個体が生まれることで、有性生殖は、私たち人間などと同じく、2つの個体間などで新しい個体を生み出します。ニハイチュウはこのどちらもできます。

タコの腎嚢の中にいるニハイチュウは、普段は無性生殖で増えていきますが、自分たちの数が増え、腎嚢胞内の密度が高くなりすぎると、今度は有性生殖を始めます。そして、無性生殖で発生した幼虫と有性生殖で発生した幼虫は異なるというのです。そして有性生殖で発生した幼虫は、新たな住処(タコ)を求めて外に出て、新しいタコを見つけてそこをマイホームとします。なぜこのようなサイクルを続けるのかは、これまではっきりとわかっていません。

ニハイチュウ

写真:ニハイチュウ
(ニハイチュウはたった30個の細胞で構成されており、タコその他の頭足類の腎嚢内に見られる。)

OIST、”ニハイチュウの権威”と共同研究

このような謎に対していくつかの光を当てようとしている研究があります。OISTマリン・ゲノミックス・ユニットの佐藤矩行教授とOISTで博士課程を修了したツァイ-ミン・ルー博士は、ニハイチュウ研究の権威である大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻の古屋秀隆准教授と共同研究を行いました。

研究者らは地元の魚市場で生きたタコを調達し、ピペットを使ってタコの尿を採取。その尿からニハイチュウを抽出し、さらにそのサンプルを純粋にするため、タコの細胞を慎重に取り除きました。

「塩水で細胞を洗い流して分離するという工程を数回繰り返し、できるだけ多くのタコの細胞を除去しました。 最後に、顕微鏡下でひとつひとつ、ニハイチュウの個体を取り出しました。」とルー博士は説明します。

しかしながら、この洗浄工程を経ても、純粋なニハイチュウの試料を得るのは困難でした。

「ニハイチュウの試料からタコの細胞すべてを取り除くことは本当に難しいのです。 しかし、純粋なタコの試料を入手するのは簡単です。そこで私たちはタコのゲノムDNAを抽出しました。」

結局この課題を解決するのには2年がかかり、最終的に、両方の生物のゲノム配列を解析することで課題を解決しました。タコのゲノムはすでに配列が決定されていたため、両者の混在した配列からタコの配列を引くことによって、寄生しているニハイチュウのゲノムを抽出することができたのです。

大きな疑問に答える「発見」へ

研究チームは、ニハイチュウのゲノムが、他の寄生動物と比較して顕著に減少していることを発見しました。 例えば、ニハイチュウにはからだの構成に関与しているHox遺伝子と呼ばれる遺伝子が4つしかありません。Hox遺伝子グループは通常秩序だっていますが、ニハイチュウの場合はそうではありません。これは、ニハイチュウがエネルギーを節約するためにどのように遺伝子を削除できるかという問いにつながっていると思われます。ニハイチュウはさらに、代謝、免疫、神経系の遺伝子を、自ら取り除いてしまっているのです。

「Hox遺伝子は複雑な動物の体を構成する上で重要な遺伝子です。多くの寄生動物のゲノム配列が決定されれば、それらの蓄積されたゲノム情報で、寄生動物の特異的遺伝子構成を明らかにすることができるでしょう。」と、古屋准教授は述べています。

ニハイチュウの全ゲノム配列は、ニハイチュウ自体の生物学におけるいくつかの大きな疑問に答えるだけでなく、寄生動物の進化というテーマへの洞察も提供してくれています。

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