投稿日:2019.08.15

【OISTレポート】OISTが新素材発見 太陽電池シリコンの「一人勝ち」に挑む

太陽の光エネルギーで発電する太陽光発電は、発電中にCO2などの有害物質が出ない特性を持つ優秀な再生可能エネルギーの一つとされています。太陽光発電は、半導体に光を当てると電気が生まれる「光電効果」という仕組みで発電します。半導体に光が当たると、電子が光のエネルギーを吸収して動きだします。このとき、2箇所の電極を導線で結ぶと、電流が流れます。エネルギーを抱えた電子が動き出して仕事をし、半導体に戻るサイクルを繰り返して、電力が供給されるのです。

現在、太陽電池の素材として市場で圧倒的に普及しているのはシリコンです。シリコンは安定性があり、価格も安く、太陽エネルギーを電気へ変換する変換効率も優れています。そんな中、上海交通大学、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFLローザンヌ)、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らによる共同研究により、現在の市場における太陽電池素材のシリコン材料の一人勝ちに挑むべく、効率的に電気を生み出し、安定性のある新素材を発見しました。 

高効率で低コスト!注目の素材『CsPbI 3』

共同研究チームは、『CsPbI 3』 という物質がいかに高い変換効率を保ちつつ、新たな物質相において安定性を保てるかを示しました。CsPbI 3は、無機ペロブスカイトの一種で、高効率で低コストであるため、太陽電池開発の世界で人気を集めている材料です。「ペロブスカイト太陽電池」は、ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造の材料を用いた新しいタイプの太陽電池で、ペロブスカイト膜は、塗布技術で容易に作製できるため、既存の太陽電池よりも低価格になります。さらに、フレキシブルで軽量な太陽電池が実現でき、シリコン系太陽電池では困難なところにも設置することが可能になります。

ペロブスカイト材料中の原子の動きが、太陽電池の機能の仕組みを示す模式図
画像:ペロブスカイト材料中の原子の動きが、太陽電池の機能の仕組みを示す模式図
ペロブスカイト材料は、高効率かつ低コストのため、太陽光発電開発の世界で人気を集めている。光が材料内の電子を励起させ、それが電気として流れる
(上記の画像“Dancing atoms in perovskite materials provide insight into how solar cells work”は、米国SLAC国立加速器研究所によるもので、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスCC BY-NC-SA 2.0の下で提供。)

CsPbI 3 はこれまで、アルファ相又は黒色のためダーク相としても知られる結晶構造について研究されることが多かった材料です。このダーク相は、太陽光を吸収するのに特に優れていますが、残念なことに、構造が不安定で、黄色味を帯びた材料に急速に劣化してしまい、日光を吸収する能力が落ちてしまうという課題がありました。そこで、本研究では、ベータ相における可能性を探りました。ベータ相は、アルファ相よりも安定した構造を持っていますが、アルファ相に比べ電力変換効率が低いという難点がありました。これは、薄膜太陽電池によく生じるひびによる影響が原因の一部となっています。ひびは太陽電池の隣接する層への電子損失を引き起こし、電子はもはや電気として流れることができません。

安定性、コスト、効率性をアップさせるために

「電子というものは、電子のポテンシャルエネルギーが低い物質に向かって自然に流れるため、隣接する層のエネルギーレベルがCsPbI 3 と同じであることが大事です。そうすれば層の間の相乗効果により、失われる電子が減り、より多くの電気が発生します。」と、共著者である大野ルイス勝也博士は述べています。

CsPbI3におけるエネルギーレベル・アラインメント
画像:CsPbI3におけるエネルギーレベル・アラインメント
CsPbI3(赤で示された中央の層)から隣接する層への電子の損失を最小限に抑えるため、すべての層のエネルギーレベル(グラフ上のeV)が似たような値であることが重要。
(提供元:OIST)

研究チームは、紫外線光電子分光法を使用し、CsPbI 3 と隣接する層との間のエネルギーレベル・アライメントを調べました。その結果、ヨウ化コリンで処理した後は、層の間のエネルギーレベル・アラインメントが良好になったため、隣接層への電子の損失が少ないことがわかりました。自然に発生するひびを修復することにより、この処理は15%から18%への変換効率の増加をもたらしました。

この研究初期段階の結果は有望なものではあるものの、無機ペロブスカイトの材料は、まだ遅れをとっています。CsPbI 3 が真にシリコンと競合できるようにするため、チームは次段階として、シリコンがこれまで優位性を保っている3つの要因、すなわち安定性、コスト、効率性について更なる取組をしていくといいます。