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【OISTレポート】タンパク質と糖尿病との驚くべき関係!

 

概要

沖縄科学技術大学院大学(OIST)細胞シグナルユニットは、理化学研究所生命医科学研究センターとの共同研究により、私たちの全身で発現しているタンパク質「CNOT3」が、血糖値の制御に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。このCNOT3が、糖尿病の発症に関係するインスリン産生細胞における異常の原因となる遺伝子の発現を抑制することがわかりました。

本研究成果は、日本時間8月28日(金)午後6時にCommunications Biology誌に掲載されました。

 

「何でも屋」のタンパク質・CNOT3!

研究の背景と経緯

糖尿病は、現代の国民病とも言われるほど一般的な疾患で、高血糖を引き起こし、腎不全や心臓病、視力低下などの深刻な健康問題につながる恐れがあります。糖尿病は、体内のインスリンが不足した場合や、インスリンに対する感度が悪くなった場合に発症します。通常、インスリンの働きによって細胞はブドウ糖を取り込み、エネルギー源として利用しますが、インスリンがなければ、ブドウ糖は血液中に蓄積されます。主にインスリン不足は、インスリンを生合成・分泌する膵β細胞の機能障害が原因となっています。

OISTの元博士課程学生であり、Communications Biology誌に掲載された論文の筆頭著者であるディナ・モスタファ博士は、「膵β細胞の機能不全が高血糖を引き起こし、最終的には糖尿病につながることは知られています。今回の研究結果は、CNOT3がこれに関与し、膵β細胞機能の恒常性維持に重要な役割を果たしていることを示しています」と説明します。

CNOT3は「何でも屋」とも言えるタンパク質です。全身の多くの臓器で発現しており、各組織で様々な遺伝子を制御しています。CNOT3は、いくつかの異なるメカニズムを介して適切な量のタンパク質を産生したり、特定の遺伝子の発現を抑制することで細胞の生存や健康状態、機能維持に関与しています。

研究内容

この度、研究チームは、マウス膵臓から採取した膵島の機能を研究しました。膵島は、膵臓の1~2%を占めるに過ぎず、研究するには非常に困難なことが知られていますが、膵β細胞は膵島に存在します。

研究チームはまず、糖尿病マウスと非糖尿病マウスで、CNOT3の発現に違いがあるのか調べました。その結果、糖尿病性膵島では非糖尿病性膵島と比較し、CNOT3のタンパク質量が大きく減少していることがわかったのです。

さらにCNOT3の膵β細胞特異的な生理機能を調べるために、CNOT3を膵β細胞特異的に欠損させたマウスを作製しました。このマウスにおける糖代謝は、4週齢では正常に機能しましたが、8週齢では耐糖能障害を発症し、12週齢のマウスは重度な糖尿病を発症していました。


膵β細胞特異的CNOT3欠損マウスでは、インスリン産生細胞が減少し、糖尿病を発症する

 

糖尿病の予防と治療法開発に貢献する可能性も!

 

今回の研究成果のインパクト・今後の展開

CNOT3がない場合、正常な膵β細胞でスイッチがオフになっているはずのいくつかの遺伝子のスイッチがオンになり、タンパク質発現が増大することを発見しました。これらの遺伝子は一度スイッチが入ると、グルコース応答性インスリン分泌ができなくなってしまうなど、膵β細胞にあらゆる障害を引き起こすため、正常な膵β細胞では抑制されています。

「この種の遺伝子の正常な機能やスイッチオフに関与するメカニズムなどについては、まだあまり知られていません。本研究で、CNOT3がこれらの遺伝子のスイッチをオフに保つ重要な因子であることを発見したことは、非常に有意義です」とモスタファ博士は語ります。

この現象の分子メカニズムをさらに研究したところ、CNOT3と通常はスイッチオフされている遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)との間に驚くべき関連性があることがわかりました。mRNAは遺伝子配列に対応する一本鎖の分子で、タンパク質の合成に不可欠なものです。

正常な膵β細胞では、これらの遺伝子のmRNAはほとんど発現しません。しかし、CNOT3が取り除かれると、これらmRNAがはるかに安定化することがわかりました。実際、安定化したmRNAからはタンパク質が産生され、正常な膵β細胞の機能に好ましくない影響を与えていました。このことは、CNOT3がmRNAを不安定にすることで、これらの遺伝子がスイッチオフ状態に保たれる可能性があることを示します。

「この研究は、正常な膵β細胞の恒常性維持の為に必要な分子機構の解明に向けた一歩であり、最終的には、糖尿病に対する新規予防法と治療法の開発に貢献する可能性があります」とモスタファ博士は語ります。

本研究に関わったOIST細胞シグナルユニットの研究者。
左から、栁谷朗子博士、ディナ・モスタファ博士、山本雅教授

研究チームには、モスタファ博士の他、OIST細胞シグナルユニットの栁谷朗子博士、山本雅教授、インペリアル・カレッジ・ロンドンのEleni Georgiadou博士、Guy A. Rutter教授、理化学研究所生命医科学研究センターのYibo Wu博士と鈴木亨博士、ラフバラー大学のTheodoros Stylianides博士が参加しました。

 

⇒詳しくはコチラ
https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/35431
(OIST公式サイト内「mRNA分解を制御するタンパク質と糖尿病との驚くべき関係」)