投稿日:2020.09.24

書籍と巡る沖縄vol.4ーちいさな島のおおきな祭り 浜田桂子ー

書籍と巡る沖縄vol.4
ーちいさな島のおおきな祭り 浜田桂子ー

ちいさな島のおおきな祭り

9月号 【文化】書籍と巡る沖縄
ちいさな島のおおきな祭り 作:浜田桂子

竹富島で600年以上続く、国の重要無形民俗文化財に指定されたお祭り

【種子取祭】-たねどりさい-

神話の中で竹富島は八重山諸島の中でも最初に造られた島。

神様や御先祖様との繋がりを大事にする竹富島は
年に20回以上もお祭りが行われます。

その中でも種子取祭は10日間続く、島を上げての大きなお祭りです。

竹富島

「竹富島がどこにあるかご存知ですか。

まず沖縄本島から石垣島へ飛行機で約1時間
石垣港離島ターミナルから船で約15分

島の人口は約350人「島全体が家族のよう」と言われる竹富島。

今回は竹富島が舞台です。

絵本【ちいさな島のおおきな祭り】

絵本「ちいさな島のおおきな祭り」では
主人公のなつみが初めて
種子取祭のキョンギンと呼ばれるお芝居に参加します。


お祭りの準備は村をあげての大イベント。
舞台に立つなつみの緊張感。


なつみと一緒に子供の目線に戻って、
種子取祭を垣間見てみましょう。


夜通し続く「ユークイ」という行事。
「バリビル」「イーヤチ
竹富島独特の言葉も沢山登場し、
竹富島の歴史や風土が色鮮やかに描かれている一冊。

歴史的にも興味深い竹富島は
研究者の方も多く訪れ研究書はあるのですが、
絵本で歴史的な行事をゆっくりと味わえる貴重な絵本です。

種子取祭を通じて人々の平和への気持ちや豊かさへの祈りを
なつみと一緒に巡ってみましょう。

今回はこの絵本の作者である
浜田桂子さんにお話を伺いました。

浜田桂子さんインタビュー -竹富島との出会い-

中村:今日はよろしくお願いします。
浜田さん:よろしくお願いします。

中村:絵本読ませていただき、村の様子に触れ
どこかとても懐かしい気持ちになりました。
浜田さんと竹富島の出会いは何がきっかけだったのですか?

浜田さん:竹富島は小さな離島で、集落がとても綺麗なんです。
行ってみたいなぁという気持ちで行ってみたのが始まりです。
私の友達が住んでいまして、
彼女が「竹富島の方々の思いや島を深く知りたいなら是非、
種子取祭を一度体験して欲しい」と声をかけてくれました。

私は竹富島の美しさや暮らしの様子、
伝統工芸の織物が大切にされており、
なんて素敵なところだろうと思いました。

なので是非「そのお祭りを体験したい」と思ったのが
お祭りと出会いです。

中村:それまでお祭りのことは?

浜田さん:それまで種取祭りのことは全く知りませんでした。

竹富島は周囲が9kmくらいで
住んでいらっしゃる方は約350人くらいです。

そしていつも神様や御先祖様と共にある空気感があります。

お祭りは季節ごとにたくさんあるんです!
年間に20くらいあって、
その一つ一つが神様や御先祖様に結びついている祈りなのです。

私たちが想像するお祭りとは少し違って
日々の暮らしを感謝しつつ、節目に神様に祈り、
先祖に祈るというものが継承されています。

その中で島の方の誇りが種子取祭だということを
その友人から教えてもらいました。

観光客も参加 奉納芸能 種取祭り

中村:お祭りは地元のものというイメージもありますが
種子取祭は観光客の皆さんも暖かく迎えられると聞きました。

浜田さん:そうなんです。
種子取祭は旧暦の9月〜10月に10日間にわたって行われます。
その内の2日間で行われる奉納芸能がとても有名です。

お祭りは神事がとても多く、実はかなり難解なお祭りなのです。
何度も竹富島に行って分かったのですが、
研究者の方がとても多いのです。

研究書もありますが、一般のものには難しいです。

中村:民族学になるのでしょうか。言語学としても興味深いかもしれません。10日間のお祭りですが、訪れた人は自由にお祭りを体験できるのですか?

浜田さん:神事というのは格式のあるもので、
10日間全てというのは一般の方の参加は難しく、
遠くで静かにという参加の仕方になるかと思います。

しかし1日目の奉納芸能が終わった後の夜から「ユークイ」という、
島中の家を「神司-カンツカサ-」という女性の方を中心に家を巡っていくものがあります。

この時には誰もが参加できて、家々が迎えてくださいます。
「たくさんの方が来てくれれば来てくれるほど良いことが沢山くる」
というものなので、夜通し体力が続く限り自由に参加できます。

中村:夜通しとはすごいです!
絵本の中でもたくさんの演目が描かれていましたが、
実際にお祭りを体験されてどのような印象を受けられましたか?

浜田さん:このお祭りは神事や決め事が沢山あります。
この絵本を描くにあたり、島の長老の方や
島でお祭りを大事にされている方に何度もみていただきました。

島の方々の誇りなので言葉一つでも間違えないように。
何度も何度もみていただきました。

この絵本では2日間の奉納芸能を中心に、
祭りに取りくむ人たちを描きました。

竹富島 家族のような島

浜田さん:竹富島は島全体が共同体のような、
島全体が一つの家族のような雰囲気が残っています。
島の人はみんなのことを知っているし、
何より、小さな子供たちはとても大事にされています。

都会などでは考えられないような、
良い意味の共同体という空気感が残っていて、
種取祭はその中での集大成のようなお祭りです。

なので、実生活から離れたようなお祭りではなく、
「日々の暮らしの中から祭りが生まれている」と感じました。

中村:1人では得られない豊さがあるように感じます。

浜田さん:竹富島は結婚して子供が生まれると島に戻られる方も多いです。島の人口は増えつつありますね。
一度島を離れるとどれだけ素晴らしい島なのかを思い出すのかもしれません。

特に小さな子供たちにとってはとても良い場所だと思います。
みんなから守られて愛されている実感できる、そんな場所ですね。

 

600年の伝統を受け継ぐということ

中村:家族のような島だからこそ600年も伝統を受け継げたのでしょうか。

浜田さん:竹富島の奉納芸能は本当に奉納なのです。

一般の方に見せるのではなく、
神様に楽しんでいただく芸能なのです。

始まりの挨拶などは島の言葉で行われ、全く分からないですよ(笑

竹富島の島言葉は那覇の言葉とも違います。
なので言語学の方々は研究対象にされています。

基本、お祭りは島言葉で進行されていくので
それだけでも厳かな感じがします。
あと祈りの言葉とか、そういうものは全部島言葉です。

神事を行うときに、行列にはそれぞれに歌があります。

それも全て島言葉で行われ、島言葉をきっちりと伝承していくという役目も担っているのかなと思います。

奉納芸能は7日目と8日目に行うのですが、
7日目を担当する集落、8日目を担当する集落が決まっています。

1つの集落が40くらいの演目を担当するのですが、
演目が全て違うのがびっくりなのです!

ブドゥイ キョンギン

舞踊をブドゥイと言い、狂言のことをキョンギンと言います。
キョンギンは男性が、ブドゥイは女性がほぼ担います。

神様に捧げるものだから厳かな雰囲気もありますが、
踊りは衣装も綺麗で華やかです。

キョンギン、お芝居は伝統を継ぎながらも
コミカルなお芝居もあるので
お客さんがドッと笑ったりりますよ。

朝10時、螺貝の音と共に庭(外)での芸能から始まります。

始まると休憩もなにもなく40演目が行われます。
そのエネルギーはすごいですよ。

2つの集落があるからこそ

何度かお祭りに通ううちに2つの集落の対抗意識も見えてきました。
もちろん一つのお祭りを島全体で作り上げるので仲は良いのですよ。

しかし2日間の奉納芸能に対しては600年の伝統がありますから、
一方の集落が伝統を守りきちんと行うのに、
自分たちの集落が疎かにはできないという意識ですね。
競い合うということが、今にきちんと伝わった理由の1つなのだなと分かってきました。

練習

島の人たちは当日の奉納芸のを迎えるまで毎晩練習します。
伝統の継承というのは毎日のお稽古なのです。
皆さんお仕事の後、集会場に集まり夜遅くまでお稽古されます。
きっちりと指導をされる方がおられてしっかりとお稽古されるのです。

島に触れて感じたこと

中村:この絵本を描かれるにあたり、何度も竹富島へ行かれたと聞きました。島に触れることで見えてきたことはありますか?

浜田さん:数回通ううちに保育所や小学校で絵本を読んだり、
中学校で美術の授業を担当させていただいたこともあって、
子供たちとも、島の方々とも仲良くなれました。

島の人になれたようでとても楽しかったです。

なぜ祭りが600年も伝承されてきたかと考えたときに見えてくるものもありました。

例えば沖縄戦のような、戦場になったというわけではないのですが
税を納めるのがとても大変だったという歴史があります。
珊瑚がもととなった竹富島の土地ではお米がとれません。

ですので西表島まで行って米を作っていたそうです。
しかし昔のことなので船での移動中に亡くなってしまったりと、
米を納めることにとても苦労された歴史があります。

税のもう一つは織物を納めるというというものがありました。
ミンサー織ですね、それから芭蕉布の織物がとても綺麗です。

それも趣味でやるわけではありません。
税なので少しでもミスがあると税として受け取ってもらえません。
なので必死で織物をされ、高い技術が今に伝承されたと伺いました。

苦と祭り

この絵本では一部しか紹介しておりませんが、
生活の中の苦しみを祭りの中で踊りにしたり歌にしたりしています。

鍬を持って踊るものもあるんです。

作物を作るのに苦労し、税にも苦労があった。
なので働いた後には「片袖がないよ」ということで
片袖がない着物で踊るものもあります。

苦労や苦しかったことをお祭りに全部抱き込んで燃焼させる。
そしてそれを島の歴史と共に若い世代に伝える。

 

助け合う

「一緒に助け合ってやる」

これが最も大事にされていることだと思いました。

「昔の人の暮らしがあったことを忘れないようにしよう」
こういう考え方が脈々と伝えられているように感じました。

孤立をさせないという姿勢もとても感じました。

 

お祭りから感じる平和への祈り

平和という観点から感じたことは
人がそこにいるということを人がとても喜び合う
ミルクの神様がお祭りに登場します。
子孫繁栄の神様です。

生まれた子供たちがスクスク育つように
そして生まれてた命こそがとても大切なんだと伝えます。

自分が生きていて、あなたが生きていること
それが素晴らしいことだとユークイのときに出会った人みんなで笑顔になります。

行列するときには行列する側と迎える側がいて
「ようこそいらっしゃいました」と迎え、
行列でやってきた側の歌と迎える側の歌が一つになり
「ガーリー」という輪になって出会えたことを喜びあいます。

今日生きていてよかった
あなたと会えてよかった

お互いの命を大切にするという姿勢がお祭りから感じられ、平和のとても深いところにある意味合いを感じました。

分かち合う命の大切さ

竹富の言葉で「かしくさや うつぐみどぅ まさる」という言葉があります。

「かしくさや」というのは「賢さ」
「うつぐみ」は一致団結

賢明なことは一致団結(連帯する)こと以上のことはない、
島の方々のアイデンティティに繋がる部分だなと思います。

島の方々はキリっと道徳性高く生活されていると感じました。

大都会だと隣に誰が住んでいるのか分からないことも多いですが、
竹富島は島に約350人。昔からのことをとても大事にされていて、
お年寄りの方がとても大切にされています。

島の魅力

東京から織物を習いに行って
そのまま住んでいる方もいらっしゃいます。

私もお祭りのときには民宿でお世話になったのですが
種子取祭りのときはみんなお祭りに行ってしまうので
旅人がお料理もしている。

何だか、自分の親戚や家族のところに帰るような感覚です。
皆さんリピーターの方が多いので慣れたものです(笑

都会にはない人との関係の暖かさを少しでも体験したくて
竹富島に足を運ぶのかもしれません。
自然もとても美しいです。

 

コロナの中、竹富島に触れ、お祭りを通じて思うこと

経済優先・効率優先を大切にして進んできた今までだったように思います。

でも、少し効率や能率が悪かったとしても、
もっと大事なものって他にあるんじゃないかって改めて思いました。

竹富のお祭りはお祭りをするからと言って観光客を呼ぼうとかそういう経済効率なんて全く度外視なのです。

神様と共にあり、ご先祖と共にあって今を過ごしているということ
これが精神的な豊さにつながっているのだろうなと感じました。

人が生きる上で何が大切なんだろうと
一度立ち止まって考えさせられましたね。

終わりに

中村:人と人が今生きていることを喜び合うこと
なかなか日常では家族であってもしていないのではないでしょうか。
心の豊さを求めながら愛し方も愛され方も分からない、そんな苦しみを抱えている方も多いのではないかと思います。

竹富島にはお祭りに至るまでの島の方々の関係性があり努力があり、
そして御先祖様が生きて来られた歴史があり、今がある。
その今を生きることへの感謝を込めた島の方々の姿を垣間見たように感じます。

竹富島だけではなく、私たち全ての生活はこうして生きていた人々によって継がれ継がれつながっています。
竹富島の歴史や風土に触れ、今少し立ち止まって振り返って見る時間、
心の豊さを考えてみる時間を持たれてみてはいかかでしょうか。

浜田さん、貴重なお話を本当にありがとうございました。