投稿日:2021.09.14

ものづくり特集:久米島で食器から看板まで、土地に根付いた木工の仕事vol.1

一つ一つ個性的な可愛らしい形の手彫りのスプーン

 

ダイビング地として有名な久米島(くめじま)は、沖縄本島から西に約100km、人口は7000人程度で、沖縄県内では沖縄本島、西表島、石垣島、宮古島に次いで5番目に大きな島。東北楽天ゴールデンイーグルスがキャンプを構えることでも有名です。沖縄本島から飛行機の所要時間は30分、船の所要時間は最短2時間50分です。

今回は、この久米島に移住し、木工の「五え松工房」を営む宮良(みやら)耕史郎さんに取材しました。宮良さんの作品はあたたかみのある素朴な形。筆者もこちらのスプーンを使っていて、口当たりも持った具合もとても良く愛用しています。どんな環境でものづくりをしているのか、とても楽しいお話を伺うことができ、大事に長く使わせていただこうと思いました。

 

久米島で木工房をはじめる

石垣島出身で小学生になる頃には、教員のご両親と那覇市に隣接する浦添市で育った宮良さん。宮良(みやら)という苗字の方は石垣島にたくさんいらっしゃるんだそう。

沖縄県立芸術大学でプロダクトデザインを学んでいた中で、木工の授業で木材加工へ興味を持ち、家具製作会社へ就職。しばらくして、もっとオリジナルの商品を作りたいと独立を考えていた頃に、ご結婚。久米島に住む祖母が久米島紬の職人であり、同じく沖縄県立芸術大学で工芸(機織り)を学んでいた奥様が久米島の博物館へ学芸員として就職。そのタイミングで、宮良さんも独立、久米島で木工房を始めました。2003年のことで、今年で18年目になります。

山の中の工房

 

工房の周りは静かで建物もないところ。そばにあるのはダム、他はさとうきび畑。加工の機械が大きな音を出しても迷惑にならない環境です。ご自宅から工房へは歩くと20分ほど離れており、加工作業のみ行う場所で水も通っていません。手元での作業は自宅の庭や台所に座ってナイフでカリカリと削っています。木工の作業は雨や湿度に左右され、木が湿気ると紙やすりがかけられません。塗料も乾かなかったり、木に浸透しないため、他の作業に取り掛かります。

 

工房名の由来の木と琉球松へのこだわり

「五枝の松」久米島町上江洲 県立自然公園五枝の松園地

 

「五え松工房」の由来は、久米島で樹齢約250年を超える琉球松の老木「五枝の松」です。伊平屋島の念頭平松と並んで、沖縄の二大名松とされ天然記念物に指定されています。工房から歩いて行けるところにあり、1本の松から5本の枝が横へ這い、森のようになっている巨木です。

独立前の勤務先の家具製作工場で「琉球松」の机などを作っていたことから「琉球松」にも思い入れがありました。油分が多く時間が経つと色が濃くなり木の表情が変わっていく。油分が多いということは、刃物が目詰まりし、癖が強く切りにくくもあり、加工は難しい。それでも木目のおおらかな、くっきりとした模様の綺麗さや黄色みの明るい色がとても好きで「琉球松を上手に使えるようになる」という自身の課題としている木材です。

宮良さんの思い入れとも相俟って「五え松工房」という名称は他に考えられないくらいぴったりハマった屋号です。

 

木工に使う木のこと

沖縄の木をメインに使っていこうと思っているけれど、県産材だけというのも違うんではないか。木はどれも性質が違い、用途に合わせた材料を選ぶことが大事、海外の木材を使うこともあります。同じ種類の木でも育った環境で木目や硬さも変わって、同じものはひとつもない。県産材だけで15、6種類はあります。イヌマキという木は沖縄の古い民家の外側の軒を支える柱に使われていて、これは成長のゆっくりな木で水にすごく強く、虫が入らない。素直にパカーンと割れて軽くて加工しやすいものです。
スプーンには「柔らかく加工がしやすいけれど丈夫なもの」「フォークには細く削っても折れない硬いもの」「マドラーやティースプーンは水に浮かないもの」と適した種類を使います。

好きな木は、イタジイという椎木。とても削りやすい木で、木目はほとんどないツルっとした見た目。タンニンの成分が多く、何年か経つと濃い色に変化します。

今後は久米島の島内で事情があって切り倒す木も活用していきたい。これらは切られた後チップにされたり、山に置いて朽ちていました。譲り受けた木は自然乾燥で使います。小さな加工品であれば、生木をある程度の形まで削り出したものを、時間をかけずに乾かすこともできます。

通常、自然乾燥には1年1寸(約3センチ)という時間がかかります。すぐ使うには人工乾燥させる必要があり、島に窯がないので本島へ送ることになり、その分コストもかかってしまう。人工乾燥には温風乾燥(食器洗い乾燥機の大きなもののイメージ)と真空乾燥(ぴったり蓋をして空気を抜いて水分がなくなる)があり、それぞれメリットデメリットがあります。

空洞化し立ち枯れしてしまったタブノキをざっくりと製材し乾燥。器やカトラリー に向いている

作家としての仕事と、島での依頼仕事

宮良さんはオリジナルのカトラリーや食器を作って展示会やショップで販売する傍ら、受注加工の依頼を受けていて、久米島に暮らす人々の様々な道具を作っています。

「間取りに合わせた家具」「久米島紬の保持団体で蚕を育てる台」「リゾートホテルで働く料理人の包丁の鞘」「カフェのオリジナルの椅子や机」、今年は「新設の図書館、ほんのもりのロゴデザイン+看板制作」も制作しました。やるからには絶対に喜んでもらえるものを作る。普段作らないものを作ることで、自分の技術や表現の幅も広がります。
受注の仕事は毎回作ったことのない物。縄文時代の「アトラトル(投槍器)」を作りたいというめちゃくちゃ面白い注文も。スケッチを元に、重さにもこだわり、完成して一緒に投げてみて、すごくよく飛びました。「何でもやりますよ」とずっと言っているので、いろんな依頼があります。

左:「風の帰る森」という施設の図書室の書架
右:地下へ降りるスタッフ専用階段

5年ほど前までは、百貨店などの展示会に次々と参加していて、品物をたくさん用意しなければなりませんでした。ずっと同じ姿勢で制作するため体への負担が重く、長く続けられるか不安もあり、仕事の方向性を考えるようになりました。島内での注文が増えてきて、受注するものは大きな什器だったり、同じ動きではないので体の一部を痛めるようなことは少なくなり、作家の仕事と、受注の仕事の2本軸は、体調のバランスにも良いようです。

器はもちろん、盛り付けも美しい

食べるのが好きで料理も得意な宮良さんは作家として作り続けているものも食器。自身で作ったテーブル、木の器で更に自分で作った料理を食べる時、何とも幸せな気分だとか、他の人には味わえないとても贅沢な時間です。趣味のキャンプ飯も本当に美味しそうです。

キャンプ飯も自作のお皿。おしゃれです!

 

ものづくり特集:久米島で食器から看板まで、土地に根付いた木工の仕事Vol.2はこちらから

vol.2では、お忙しい中、「キャンプで挑戦できる、お箸作り」
の動画を用意していただきました!(近日公開)

 

下記の雑貨店で、五え松工房の作品を扱っています。

SHOPインフォメーション

〜久米島〜
店名:PLANKTON / DEE WHY CAFE
住所:〒901-3124沖縄県島尻郡久米島町仲泊511-2
   月~金:11:00~18:00定休日: 日曜日
電話:098-985-3776

 

店名:サイプレスリゾート久米島 ショップ海音 ~clapotis~
住所:沖縄県島尻郡久米島町字大原803-1
   7:00〜21:00
電話:098-985-3700

 

〜沖縄本島〜
店名:mofgmona no zakka
住所:〒901-2211 沖縄県宜野湾市宜野湾2丁目1-29-301
   月〜木 11:00〜17:00 金〜日 11:00〜18:00
電話:098-893-5757

 

店名:ten
住所:〒901-2301 沖縄県中頭郡北中城村島袋1497
   月〜水 定休日 木〜日 12:00〜16:00
電話 : 098-960-6832

 

工房インフォメーション

店名:五え松工房
住所:沖縄県島尻郡久米島町字仲地184-5
(工房での直接販売や見学はしておりません。ご用件のある方は事前にご連絡ください。)

営業時間(お問い合わせ受付時間):9:00〜18:00
電話:098-985-4833
E-mail:goematsu@woody.ocn.ne.jp
URL: