投稿日:2025.02.05

「西表島のレストラン【テラ イリオモテ】のご紹介」

前回に引き続き、西表島にて日本で最南西エリアにあるイタリア料理店「テラ イリオモテ」を経営されている、鄭 彰彦さんからのコラムをご紹介します。
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時計の針が0時を過ぎた頃。
山積みになっていたお皿を洗い終え、調理場を磨き終えた後、最後の作業としてワイングラスを磨いていく。
一日の幕が下りるまであと少し。
ストップウォッチで計っている洗い作業の時間は2時間40分に差し掛かろうとしていた。
東洋のガラパゴスとも称される西表島の夜は、車が通ることも少なく静か。
外から聴こえてくるのはカエルの合唱と、リュウキュウコノハズクの囁くような唄い声だけ。
日本最南端エリアの星空保護地区・西表島の夜は、今日も数えきれない程の星がキラキラと瞬いている。
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ここは、ディナータイムには1日1組限定、1棟貸切りの完全予約制イタリアン:リストランテ・テラ・イリオモテ。
舞台となるのは、生息する生物の多様性と希少性から、ユネスコ世界自然遺産に登録されているジャングルとマングローブの西表島。
2021年に世界自然遺産となったこの西表島をステージに、亜熱帯の個性を食分野からエンターテイメントとして発信するレストランです。
そんな場所柄から生まれた料理コンセプトは、~もし西表島がイタリアの島なら~、というもの。
「世界の西表」と表現できる場所の個性を存分に伝える為に、沖縄・日本の枠を飛び越えて世界中の食材と西表島・八重山の食材をフュージョンさせています。

【ディナーのセット 島カボチャや冬瓜などがテーブルを飾る】

19時にスタートするお食事は、その日のゲストから届くリクエストに合わせて食材や調理法を選んで組み立てるコーススタイル。
前菜・パスタ・メイン・デザートの流れで紡いでいく、食の物語です。
全国から足を運ぶゲストから届くリクエストに応える以外にも、マグロの名所:青森の大間からのゲストに八重山のマグロを、三重の松坂からのゲストに石垣牛を、という様に、『日本の中の八重山』の個性が際立つセレクトも行います。
八重山圏内には、1組のゲストに1棟貸しを行うレストランはありません。
プロポーズやハネムーン、結婚記念日やお誕生日等お祝いのシーンから食を目的としたグルメ旅行まで、世界自然遺産の島でのユニークな食体験を求めるゲストたちが、特別な思い出をつくるために訪れています。

【カナダからテラ・イリオモテを目指していらしたご夫妻と】

【ハネムーンのメインディナーとしていらしたご夫妻】

【フランスからいらしたグループ】

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今回の記事では、西表島でレストランを営むからこそ、大切にしている考えについてご紹介します。
八重山の自然に育まれた亜熱帯の食材を使って、食を楽しむレストランを営む私にできること。
それは、嬉しい時間や楽しい時間、心満たされる時間になる様に、目の前のゲストに心の矢印をむけ、『言葉と料理をプレゼントする』ということです。
例えば、海ブドウと島魚のサラダを、言葉と料理でプレゼントする時。
どう伝えれば、ゲストが嬉しい気持ちになって八重山をより好きになり、良い思い出に残すことができるかを考えて料理の名前を生み出します。
高い栄養価と美しさを持つスーパーフードとして、海外では『グリーンキャビア』と呼ばれて人気が高まる海ブドウ。
また、海の輝きを閉じ込めたキラキラと輝く粒から『海の宝石』と呼ばれることもあります。
グリーンキャビア・海の宝石の様に、聞いた瞬間に心を惹く言葉を探します。
そして島魚にも、個性的な現地名があります。
例えば、沖縄三大高級魚の一つ、「スジアラ」。
スジアラは、沖縄では「アカジン」と呼ばれています。
鮮やかな赤い体色からは想像できないほど美味しい白身が取れるハタの仲間です。
名前の由来は、沖縄の方言で着物を意味する「チン」を、体色の「アカ」と合わせ、
赤い着物を纏った魚「アカチン」が変形し「アカジン」になったというものです。
現地名は覚えづらいからこそ、現地で親しまれる名前の由来を合わせて伝えることで、沖縄の個性的な食材を、親しみやすい存在にするというプレゼントに。
目の前のゲストに心の矢印を向けて言葉探しをすることは、料理をつくる私には宝探しに感じられます。
見つけた宝物を繋ぎ合わせてできた料理名は、以下の様になります。

≪珊瑚香る海を伝えるサラダ≫~朱色の着物に身を包むアカジンに海の宝石を合わせて~
【鮮やかすぎて食材にみえないアカジン】

【名前に負けない様、工夫を凝らしたサラダ】

機能としてはお腹を満たす場としてのレストランですが、海外のトレンドや沖縄の方言・歴史等、食以外のジャンルを跨ぐ情報を届けることができた時、食の時間がエンターテインメントに変わっていくのです。
テラ・イリオモテが追求するのは、「西表島」という特別な場所で食を楽しむ「意味」です。
お腹を満たすという「機能」ではなく、西表島という個性ある島で食を楽しむことの「意味」をつくること。
機能ではなく意味を追うということが、西表島でレストランを営むからこそ、大切にしたい考えです。
西表島に足を運ぶこと自体、スペシャルなこと。
限られた滞在時間の中で、食の機会は数回しかないものだからこそ、心から楽しめるひと時をつくっていきたいと考えています。
次のディナーに向けたお皿やグラスの磨き込み。
完璧にやり続けます。
個性ある沖縄食材のポテンシャルを輝かせる料理。
次の一皿が最高となる様、技術を磨き続けます。
一生に一度の今日という時間を楽しんで頂くためのサービス。
言葉をプレゼントとして受け取って頂ける様、沖縄文化や歴史についても学び続けます。
西表島・祖納という場所を世界に誇れるレストランをつくるために。
毎日動き続けて、回り道があったとしても、継続して力をつけていきたいと思います。