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人間が動くときに足を使うように、細菌はべん毛という柔軟な運動器官を用いて泳ぎ回り、食糧やすみかを探します。”自然がデザインした巧妙な発明品”であると言われる細菌べん毛については過去半世紀にわたり多くの研究が行われていますが、未だ精緻な機構は謎のままです。

べん毛フックはダイナミックに動くハイテク構造

この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者らは、フックとして知られる細菌べん毛の柔軟なジョイントを通して、菌体内部のモーターから外側のべん毛繊維に力を伝達する仕組みを発表しました。

「べん毛は驚くべき離れ業を持っています。ローター、ステーター、ドライブシャフト、ブッシング、ベアリング、そしてプロペラのようなフィラメントが同期し、粘性液体中を細菌が毎秒、自身の数倍の距離を移動できる推進力を生み出します。フックは、柔軟なジョイントを作製しようしている人間の試みを、多くの点において超えるものです。」と、本論文の筆頭筆者である柴田敏史博士は述べます。「フックのモデルを構築している間、その素晴らしい組立て構造に驚きました」と、共同筆頭著者である松波秀行博士はコメントを加えます。

車で言えば、車輪とホイール、車輪へ駆動を伝達するシャフトや車輪の回転軸を支え、よりなめらかに回転することを助けるといった構造まで、すべてを兼ね揃えているべん毛

車で言えば、車輪とホイール、車輪へ駆動を伝達するシャフトや車輪の回転軸を支え、よりなめらかに回転することを助けるといった構造まで、すべてを兼ね揃えている、といったところでしょうか。べん毛、おそるべし!

ウルフ准教授の生体分子電子顕微鏡ユニットは、これまでにエボラウイルスのコア構造や、がんと闘うセネカバレーウィルスの三次元再構築にも成功した実績を持っています。彼らは今回、クライオ電子顕微鏡を使用し、スーパーコンピューティングと分類アルゴリズムを組み合わせた手法を用いました。始めに、県立広島県立大学の相澤慎一名誉教授の支援により、フック構造体を細菌から精製し、次に、急冷凍結した試料をクライオ電子顕微鏡を使い撮像し、最後に、OISTの高性能コンピューティング・クラスターの助けを借りて、三次元像を組み立てました。

べん毛フックは約130ものサブユニットからなるジョイントであり、各サブユニットは単一種類のたんぱく質でできています。各サブユニットは3つのドメインで構成され、剛健なドメインは各々柔軟なヒンジ(ちょうつがい)でつながっています。なんと、これらサブユニットは、同一の化学構造にもかかわらず、11もの異なる状態をとれることがわかったといいます。回転しているフック内ではサブユニットの構造は協調的に変化します。

べん毛の構造を紐解くことが疾病予防戦略の一歩に

らせんチューブ状のフックを介し、回転力はモーターから外側のべん毛繊維に伝達されます。ヒンジを持ったサブユニットの特徴は、フックがどのようにして柔軟性と剛性を兼ね備えているのかを説明しています。チームはまた、異なる細菌のフックサブユニットにもヒンジのモチーフ(基本的な形)が保持されていることを確認しました。

この発見は将来、命に関わる細菌感染症との闘いにおいて役立つ可能性があります。研究で使用されたモデル生物であるサルモネラ・エンテリカは、人間にとって危険な病原体のひとつであり、開発途上国では主要な死因でもあります。細菌の運動性は、細菌の感染に直結しますが、べん毛フックはまさにその運動性において不可欠なものです。すなわち将来的に、フックを介した運動を遮断することができれば、疾病予防戦略を改善できるかもしれません。

※詳細はこちら
https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/34331
(OIST公式サイト内「細菌の自由自在な運動性を解明」)