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シロアリと言えば、私たち人間にとっては家屋の大敵。放置すれば家の倒壊にもつながりかねない「害虫」です。ところが自然界では、落ち葉、倒木や生物の死骸などを食べて分解する「分解者」として重要な役割を担っています。

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の進化生物学者らは、シロアリの進化について新たな系統樹を発表しました。発表はCurrent Biology誌上で行われました。

◇キノコを栽培するシロアリも!?

系統樹とは、生物の進化の歩みを樹木の形のように描いた図のこと。シロアリは、現在3,500種ほどが報告されており、大まかには、祖先的な下等シロアリと進化的により新しい高等シロアリの2つのグループに分類されています。

私たち人間を困らせるシロアリは、木材を食べる下等シロアリに属します。一方で、大半のシロアリは高等シロアリで、その生態は、木材を食べるだけでなく、土を食べる土壌食や、さらには菌園と呼ばれる構造体を作ってキノコや細菌などの微生物を栽培して餌とする微生物栽培まで、実に多様です。また、高等シロアリは下等シロアリから進化したものと考えられています。生態がどのように進化したのかを知ることは、シロアリの進化のみならず、それに関わる生態系を理解する上でも極めて重要なことなのです。

大規模な遺伝情報で系統樹を推定

とは言え、1億5千万年と言われる、シロアリの長大な進化の歴史を正しく推定することは容易ではありません。OISTでは、多数の遺伝子配列を網羅的に取得する手法と従来の系統樹推定法を組み合わせることにより、各シロアリ種から最大4,065種類の遺伝子を比較して系統樹を構築するという、これまでにない大規模な遺伝情報を用いた高精度な進化系統樹を推定することに成功しました。

新たな系統樹では、スファエロシロアリ亜科はシロアリ科内のキノコシロアリ亜科の姉妹群として位置づけられました。 この二つの亜科は、シロアリ塚の内部で菌園をつくるという珍しい特徴をもちます。

これまでの研究結果からは、下等シロアリから高等シロアリに進化する過程で生じた変化には、微生物との共生システムの進化が大きく関わっていると推測されています。木材食である下等シロアリは、腸内に細菌と原生生物を保有しているのに対し、高等シロアリでは原生生物が進化の過程で失われています。それゆえ、多くの高等シロアリは腸内細菌のみと共生関係を構築していますが、一部の高等シロアリはキノコ(菌類)や細菌を栽培することにより体外で共生関係を構築しています。

進化の解釈に”新発見”

「これまで、シロアリの共生システムの進化は、腸内細菌と腸内原生生物→腸内細菌と微生物栽培→腸内細菌のみ、という順に進化してきたと考えられていました。これは、微生物栽培をするシロアリのグループが系統樹上で腸内原生生物を持つグループと腸内細菌のみを持つグループの中間に位置していたことによります。しかし、今回得られた系統樹においては、二つの高等シロアリのグループは系統樹上で並列に位置付けられるということが明らかになりました。」とOIST進化ゲノミクスユニットの研究者であるアレシュ・ブチェック博士は説明します。

(左から)トーマス・ブルギニョン准教授、シロアリの巣、アレシュ・ブチェク博士
(写真は(左から)トーマス・ブルギニョン准教授、シロアリの巣、アレシュ・ブチェク博士)

つまり、系統樹から読み解く解釈ではどちらが先に進化したのかわからないということになります。ただし、キノコ栽培をするシロアリの腸内にはその他の高等シロアリと同じ種類の細菌が見つかっていることもわかっています。これらの情報を統合すると、腸内共生細菌と腸内原生生物を持つグループから腸内共生細菌のみを持つグループへの進化が起こり、その後一部のグループがキノコや細菌などの微生物栽培をするように進化したというシナリオが考えられます。また、今回の研究により、菌園をつくるという特性の進化はシロアリ科において一度だけであり、その進化はシロアリ科の祖先の腸内から共生原生生物が失われて数百万年経ってから起こったということが明らかになったのです。

今回の研究は、シロアリの進化的背景の解明のみならず、その生態をより詳細に理解する上でも重要な知見であり、害虫防除や生態系工学の発展にも貢献すると見られています。OIST進化ゲノミクスユニットでは、次の目標として、菌園で細菌を栽培するスファエロシロアリをより詳細に調査することを挙げています。この亜科の系統的位置が明らかとなった今、チームは腸内細菌、そして複雑な菌園に存在する全ての生物について分析を進めています。

※詳細はこちら
https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/34376
(OIST公式サイト内「系統解析で再考を迫られるシロアリの進化」)