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オーストラリアには、宇宙空間からも確認できるほど広大な世界最大のサンゴ礁地帯”グレートバリアリーフ”があります。その暗礁は生物の多様性を支える重要な役目を持つとされ、1981年に世界自然遺産に登録されました。2016年、そんなグレートバリアリーフが、海水温の急激な上昇により壊滅的な被害を受けました。人間活動が引き起こす気候変動により、海洋熱波の頻度・期間・規模が増していますが、その全容はまだ把握できていません。

そこで、沖縄科学技術大学院大学(OIST)海洋気候変動ユニットは、オーストラリアのジェームズ・クック大学ARCサンゴ礁研究センター及び香港大学との共同研究にのりだしました。

海洋熱波が魚に与える影響に注目

研究チームはオーストラリア北東部沿岸沖に位置するリザード島で、2016年の海洋熱波発生時とその前後に採集した、サンゴ礁に生息する5種の魚を調査しました。本研究では、個体数が多く捕獲が容易なスズメダイとカーディナルフィッシュが用いられました。スズメダイは昼行性ですが、カーディナルフィッシュは夜行性で、海水温が低い夜間に活動し採食する性質をもっています。

スズメダイ科のスパイニークロミス
写真:今回の本研究で調査した魚の一種であるスズメダイ科のスパイニークロミス(Acanthochromis polyacanthus)が、生息地のオーストラリア・ノーザングレートバリアリーフで泳ぐ姿。頻度・期間・規模が増している海洋熱波は、サンゴ礁とそこに生息する魚の個体数に有害な影響を及ぼす可能性がある。提供:Tane Sinclair-Taylor

研究者たちは凍結した魚の標本を研究室に持ち帰り、肝臓の遺伝子発現パターンを分析しました。すると、熱波にさらされた期間が長いもの、短いもののどちらにも、代謝・ストレス・呼吸に関連する分子レベルでの変化を認めました。さらに、これらの分子レベルの証拠では、気候変動に順応または適応する方法には遺伝的背景が大きく影響し、脆弱性は種によって異なるため、海水温上昇に対する反応は熱帯魚の種によって違うことがわかりました。

「飼育されていた魚を対象に実験した場合だと、地理に基づいて一般化することはできません。数少ない魚を研究室内で実験した結果も同様です。その意味で今回得られた異なる反応は重要であり、政策決定者や漁業関係者にも影響を持つものと言えるでしょう。」と、本研究論文の共著者である、OISTのティモシー・ラバシ教授は説明します。

今起こっている海洋熱波、即自的な影響の理解が大切

本研究では、海洋熱波に対する魚の生理反応は、種に関係なく、熱波の強度と期間に依存することもわかりました。今後、ラバシ教授ら研究チームは、人為的気候変動が即時的に魚に与える影響の調査を継続し、海水温上昇の繰り返しが、魚と、その長期的な適応に与える影響を研究していく考えです。そのために、管理された環境下で熱波をシミュレーションし、温度の違いや期間の違いがどのように魚に影響を及ぼすのかを研究することにしています。

ラバシ教授は、「時間の経過とともに、魚は海水温の上昇に適応する、もしくは水温の低い海域に移動するかもしれません。しかし海洋熱波は今起こっているわけですから、私たちは熱波がもたらす即時的な影響を理解することが必要です。」と、短期的影響の重要性を強調しています。

地球温暖化による異常気象や大災害など、人間社会に与える影響が騒がれますが、野生動物や海洋生物の生態にも大きな影響を及ぼしています。一人一人の省エネの工夫が、地球温暖化の速度をゆるめることにつながるかもしれませんね。電気をこまめに消し、冷暖房の設定温度を控えめに設定したり、買い物にエコバックを持参するなど、日常生活を見直してみましょう。

※詳細はこちら
https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/34764
(OIST公式サイト内「上昇する海水温が熱帯魚に与える影響」)