投稿日:2020.09.11

【OISTレポート】低価格の新型コロナウイルス抗体検査法を開発!

【OISTレポート】低価格の新型コロナウイルス抗体検査法を開発!

新型コロナウイルス抗体の検出、定量が可能な低価格チップを開発

抗体検査は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行の原因であるSARS-CoV-2ウイルスとの闘いにおける重要な戦略として浮上してきています。しかし、現在の抗体検査法は世界的規模で実施するにはまだ精度が低いか、値段が高すぎることが課題です。そんな中、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームが、迅速で信頼性が高く、しかも低価格の抗体検査法を開発しました。

Biosensors and Bioelectronics誌にこの度掲載された概念実証試験では、持ち運び可能なLab-on-a-chip(ラボオンチップ)技術を用いて、希釈された血漿中に存在する抗体の濃度を高い精度で測定することができます。


OISTマイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットの研究チームにより開発された抗体検査プラットフォーム

抗体は、ウイルスを無力化するために免疫系により産生されるタンパク質です。これまでの研究によれば、新型コロナウイルス抗体は感染後期に出現し、感染が消滅した後も血液中に残存するため、すでにウイルスに感染したことがある人を特定することができます。つまり、抗体検査は、公衆衛生政策の策定において重要な情報である、コロナウイルス感染の拡大状況を測定するための重要な手段といえます。

しかし今までのところ、多くの国で大規模な抗体検査の採用には至っていません。

本研究論文の筆頭著者であり、OISTマイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットの研究員であるリカルド・フナリ博士は、「現在使用されている抗体検査プラットフォームの多くは、精度が高く信頼の置けるものではありますが、コストが高く、研究室において熟練した技術者が操作する必要があります。このことは、結果を得るまでに数時間、あるいは数日を要することを意味します」と説明します。「一方で、簡便で、持ち運びができ、迅速な他の試験法は、精度が十分でなく、検査に費やした努力に見合う結果が得られません。」

今回、研究チームは、有力な光センサー技術とマイクロ流体チップを組み合わせて、代替となる抗体検査プラットフォームを開発することで、精度と使いやすさのトレードオフをなくすことに成功しました。このチップは30分以内に高感度な結果を提供することができ、臨床的に意義のある最低濃度の抗体でさえも検出することが可能です。いずれのチップも安価に製造でき、検査のための実験室や熟練した技術者を必要としないため、全国的な検査を行うこともできる可能性が高くなります。

さらにこの新開発のプラットフォームにはもう一つ際立った優位性があります。マイクロ・バイオ・ナノ流体ユニットのリーダーであるエイミー・シェン教授は、その優位性について、「この検査は単に抗体があるかないかを検出するだけではありません。免疫系により産生された抗体の量についての情報も得ることができるのです。言い換えれば、定量性があるため、新型コロナウイルス感染の治療からワクチンの開発までに応用される可能性が大きく広がります」と述べています。

シンプルだが強力な検出原理!

この抗体検査プラットフォームは光ファイバー製の光学プローブと一体化したマイクロ流体チップから形成されています。マイクロ流体チップ自体は、マイクロ流体流路が埋め込まれ、金でコーティングされたスライドグラスから出来ています。ここに電圧をかけることで、一つ一つが光の波長より短い、数万もの小さなナノスパイクを持つ金の構造をスライドグラス上に作り上げました。


緑色の矢印はシリンジポンプの働きによりサンプルがチップ内を流れる方向を示す。

 

チームはさらに、これらの金のナノスパイクにSARS-CoV-2スパイクタンパク質のフラグメントを取り付けることにより修飾を施しました。このタンパク質はコロナウイルスを細胞に感染させる極めて重要なものであり、感染した人の免疫系は強い反応を起こします。

この概念実証試験では、スパイクタンパク質に特異的な新型コロナウイルス抗体を添加した人工ヒト血漿サンプルを用いて、この検査法が抗体を検出する基本的な原理を示しました。

シリンジポンプを用い、サンプルはチップ内に引き込まれます。血漿の流れがタンパク質で覆われた金のナノスパイクを通過するとき、抗体がスパイクタンパク質のフラグメントに結合します。そしてこの結合が光ファイバープローブによって検出されます。

フナリ博士は、「この検出の原理はシンプルですが強力なものです」と言います。フナリ博士によれば、その原理は、光の照射により共に振動する、金のナノスパイクの表面に存在する電子の独特な振る舞いに基づくものです。これらの共鳴電子は、例えば抗体の結合など、周囲環境の変化に対して非常に敏感であり、ナノスパイクによって吸収される光の波長をシフトさせます。


ナノスパイクにより吸収される光の波長は局所的な環境によって変化する。この原理が、タンパク質被覆ナノスパイクに結合した抗体の存在とその量を検出する基本となります。

「多くの抗体が結合すればするほど、吸収される光の波長のシフトは大きくなります」とフナリ博士は補足します。「光ファイバープローブは、波長シフトを測定する光検出器に接続されます。得られた情報から、私たちは血漿サンプル中の抗体濃度を測ることができるのです。」

 

定量検査の展開がもたらす明るい未来

定量検査の大規模な展開は新型コロナウイルスの治療に大きな影響を与えるかもしれません。

例えば、定量検査は患者の免疫系がウイルスとどの程度有効に闘えているか、医師が追跡することに役立ちます。また、血漿輸血療法と呼ばれる有望な実験的治療に最適なドナー(供血者)を特定するために用いることも考えられます。感染から回復した患者の抗体を豊富に含む血液を現在感染している患者に供与し、ウイルスとの闘いを援助させようというものです。

免疫反応のレベルを測定できるということはまた、治験中のワクチンがどの程度有効に免疫系を刺激するかを調べることができるため、ワクチンの開発にも役立ちます。

しかし、研究者らはこの装置はまだまだ開発途上であることを強調しています。研究チームは製造コストをさらに抑えるためチップのサイズを小さくすることを目指しており、また検査の信頼性向上にも努めています。

「この装置が、人工ヒト血漿サンプル中で異なる濃度のスパイクタンパク質抗体を検出できることを示しました。現在は、チップが同時に複数の異なる抗体を検出できるようにこの試験法を拡張したいと考えています」と、フナリ博士は述べています。「装置が最適化できれば、地域の病院や医療機関と連携し、実際の患者のサンプルで検査を実施することを考えています。」

 

⇒詳しくはコチラ
https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/35464
(OIST公式サイト内「新型コロナウイルス抗体の検出、定量が可能な低価格チップを開発」)