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【OISTレポート】飛ぶ能力と引き換えに大きなメリットを手にしたアリ

アリは地球上で最も成功している動物のグループの一つで、温帯土壌から熱帯雨林、砂漠砂丘、さらにはあなたの家の台所まで、あらゆる場所に生息しています。アリは社会性昆虫であり、そのチームワーク力は、長い間アリの成功の重要な要因の一つとされてきました。アリは自分の体重の何倍もの物を持ち上げたり、引っ張ったりして巣に持ち帰ることができることはよく知られています。しかし、これまでのアリ研究ではコロニーの社会的側面に焦点が当てられ、アリの個体に関する研究は見過ごされてきました。

 

飛翔能力の喪失が強さの進化に直結?!

この度、沖縄科学技術大学院大学(OIST)とフランスのソルボンヌ大学の研究チームは、アリの体の中心である胸部のX線画像を撮影して3Dモデルを作成し、筋肉や内部骨格を分析することで、働きアリの個体の強さの理由を調べました。Frontiers of Zoology誌に掲載された本研究では、働きアリの飛翔能力の喪失が強さの進化に直結しているという仮説を検証しています。

OIST 生物多様性・複雑性研究ユニットを率いる エヴァン・エコノモ教授は次のように話しています。「働きアリは飛翔性昆虫から進化しました。飛翔能力を失ったことで、地上での活動に適した体に進化できたのだろうと常々推測していましたが、それがどのようにして起こったのかについては、まだ多くのことがわかっていません。」

私たち人間は空を飛べるようになりたいと夢見ますが、実際のところ、飛翔は体格に厳しい制約を与えます。飛翔性昆虫では、翅(はね)の筋肉が胸部の大部分を占めており、50%以上を占める昆虫もいます。その結果、頭部や脚、腹部を支え動かすために使う筋肉が外骨格に対して押し付けられ圧迫されているのです。

しかし、飛翔の制約がなくなれば、胸部の全空間が開放され、残った筋肉を拡張して再編成することができるようになるのではないかと研究者たちは推測しました。

この分野のこれまでの研究は、アリの外部構造に焦点を当てていましたが、今回OISTが持つ技術を利用して、胸部の内部で起こっていることを非常に詳細にとらえることができました。特定の種の特殊性に焦点を当てるのではなく、すべてのアリに共通する一般的な特徴を分析することを目的としました。遠縁の2種のアリについて、無翅の働きアリと有翅の女王アリを含めて詳細な分析を行い、その結果をより幅広い種のサンプルでも確認しました。


左の写真はサハラギンアリの働きアリ。出典:Philip Hönle
提供:
Philip Hönle


右は働きアリと女王アリ(体が大きく翅がある)。出典:Philip Gronski
提供:
Philip Gronski

 

 

筋肉をマッピングし3Dモデルを作製

研究では、高度なX線技術を使用して、病院のCTスキャンのように、しかしそれよりはるかに高い解像度で、内部および外部の生体構造をスキャンしました。そしてこのスキャンを基に、すべての筋肉をマッピングし、3Dモデルを作製しました。その結果、胸部内部の全体像を得ることができました。そして、ハチの仲間であるアリ類と他の無翅のハチ類の違いを比較したのです。

その結果、研究者たちの予測通り、飛翔の喪失によって明らかに胸部の再編成が可能になったことを発見しました。本研究論文の筆頭著者であり、ソルボンヌ大学で研究教授を務めていた故Christian Peeters博士は次のように説明しています。「働きアリの胸部の中では、すべてのものが小さな空間に美しくまとめられています。3つの筋肉群すべての体積が増加しており、働きアリに強さとパワーを与えていました。また、頭部を支え、動かす首の筋肉の形状が変化し、内部の筋付着部も変更されていました。」

興味深いことに、無翅のハチと比較すると、これらの昆虫がアリとは全く異なる方法で飛翔の喪失に対応してきたことがわかりました。無翅のハチは単独行動で、餌を見つけたときにそこで摂取します。これに対して、アリはコロニーの一部として、女王と幼虫のために獲物を狩り巣に持ち帰るため、運搬能力を助長する選択圧が働いたことは理にかなっています。

アリは行動、生態、遺伝的特徴の観点からは何世紀にもわたって研究されてきましたが、その強さに関しては、これまでやや見過ごされてきたと研究チームは強調しています。次のステップは、異なる筋群の機能についてより詳細な生体力学モデルを構築し、大顎と脚についても同様の研究を行い、アリの種間で見られる多様性を探ることです。

「私たちは、アリをアリたらしめるものと、アリの成功の背後にある重要なイノベーションを理解することに関心があります。社会構造が一つの要因であることは分かっていますが、この個体の強さはもう一つの重要な要因です」とエコノモ教授は説明しました。

本研究には、エコノモ教授、Peeters博士の他に、リスボン大学/OISTのRoberto A. Keller博士、ソルボンヌ大学/OISTのAdam Khalifeさん、OISTのGeorg Fischer博士とユリアン・カーツクさん、ケルン大学のAlexander Blanke博士が参加しました。

Christian Peeters博士

Christian Peeters博士は、本論文が発表される直前の2020年9月初旬に亡くなりました。Peeters博士は35年以上にわたって世界中で研究を行い、アリの繁殖行動、コロニー戦略、形態学的適応の進化に焦点を当てて、社会性昆虫の社会の研究に従事されました。博士は数多くの学術論文を発表しただけでなく、多くの動画制作、講演の実施、また一般の人にも自身の研究に親しんでもらえるようにオンラインリソースに寄稿するなど、精力的に活動されました。OISTは、Peeters博士の科学に対する多大な貢献、昆虫学への情熱、生物多様性・複雑性研究ユニットとの共同研究におけるご尽力に対して敬意を表します。
⇒詳しくはコチラ
https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/35486
(OIST公式サイト内「飛ぶ能力と引き換えに大きなメリットを手にしたアリ」)